大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(ワ)8354号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

内藤満

被告

株式会社○○

右代表者代表取締役

丙沢一郎

右訴訟代理人弁護士

長島良成

右同

望月真

主文

一  被告は、原告に対し、三二万三六八九円及びこれに対する平成一一年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告から、昭和五八年一月一〇日から平成九年一二月一五日までの間、別紙計算書の貸付日に貸付金欄記載のとおり、合計一八五万円を借り入れた(以下「本件貸金債務」という)。

2  原告は、被告に対し、本件貸金債務につき、昭和五八年二月四日から平成一〇年九月一〇日までの間、別紙計算書の返済日に返済額欄記載のとおり、合計二二五万八三五六円を弁済した。

3  右貸付金とこれに対する返済を利息制限法に照らして計算し直すと、別紙計算書残元金欄に記載のとおりの過払金が生じる。

4  よって、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、右不当利得金三二万三六八九円及びこれに対する平成一一年六月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実1、2は認める。

三  抗弁(不当利得返還請求権の放棄)

1  原告の代理人である訴外弁護士Aは、被告との間で、平成一〇年三月一三日、本件貸金債務につき、原告が被告に対して債務総額三〇万〇九一八円(平成一〇年一月九日現在)(内訳元本二九万二九五〇円 利息七九六八円)の支払義務のあることを認める旨の和解契約(以下「本件和解契約」という)を締結した。

2  訴外Aは、右合意の際、本件貸金債務における利息制限法を超えて弁済した過払金の不当利得返還請求権を放棄した。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実1は認め、抗弁事実2は否認する。

五  再抗弁

本件和解契約は、利息制限法に違反し無効である。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁については争う。

理由

一  請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがなく、同3の事実は弁論の全趣旨によりこれを認める。

二  抗弁について

1  抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

2  抗弁2の事実について

証拠(乙一ないし四)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、訴外Aに対し、債務整理を依頼し、訴外Aは、依頼に基づき、被告に対し、被告が原告に対して有する債権の内容につき照会した。

(二)  被告は、訴外Aに対し、平成一〇年一月九日、債権内容を以下のとおり回答した。

債権の種類 貸金

約定利息 29.600%

最新入金日 平成九年一二月四日

残元本 二九万二九五〇円

利息・手数料 七九六八円

合計 三〇万〇九一八円

(三)  訴外Aは、被告に対し、平成一〇年三月六日、原告代理人として、毎月金六〇〇〇円×四九回=二九万四〇〇〇円、最終回金六九一八円とする内容の弁済和解案を書面により提示した。

(四)  訴外Aは、被告との間で、平成一〇年三月一三日、原告の代理人として、次のとおりの記載のある合意書を作成した。

「株式会社○○を甲、甲野太郎を乙として、次のとおり債務弁済契約を同意する。

乙は甲に対して債務総額金三〇万〇九一八円平成一〇年一月九日現在

内訳 元本 二九万二九五〇円

利息    七九六八円

の支払義務のある事を認め上記の債務に対し、金三〇万〇九一八円を次のとおり支払う。

平成一〇年四月から平成一四年五月迄毎月一〇日に限り金六〇〇〇円宛五〇回に分けて支払う。但し最終回は金六九一八円とする。」

以上の事実関係からすると、訴外Aは、被告から提出された回答書記載の金額に基づいて、そのままの金額で和解契約を締結したことが認められるものの、右回答書には、本件貸金の約定利息として29.600%との記載がなされていること、訴外Aが弁護士であることも併せ考えれば、訴外Aは、本件和解契約の際に、承認した債務の額が、利息制限法違反の約定利率に基づいて算出された金額であること、これを利息制限法の範囲内の利率に引き直して超過分を元本と制限利息の支払いに充当すれば不当利得が生じている可能性があることを十分認識していたものと認められる。

してみれば、訴外Aは、本件和解契約の際に、利息制限法所定の金額を超過する既払部分につき、黙示のうちに不当利得返還請求権を放棄したものと認められ、その効果は、原告に帰属する。

したがって、抗弁2の事実が認められる。

三  再抗弁について

前述のごとく、本件和解契約は、既に支払済みである利息制限法所定の制限利率を超過する支払いを実質的に追認し、さらに当該利息制限法違反の約定利率を前提とした残債についての分割の支払いを約束したものである。

そもそも利息制限法一条が制限利率をもうけて、これを超過する利息の約定を禁じていること、これに反した契約は絶対的に無効としていて、例外的に同条二項で制限超過部分の任意の支払いについての返還請求に対して裁判所が助力を与えないとしているものである。

そして、債務者が任意に利息制限法所定の制限を超えた利息を支払った場合においては、これを元本に充当し、計算上元利合計額が完済された後は、余剰金額を不当利得として返還請求することができるとするのが確立された判例の説くところである。

右利息制限法の法条と判例の趣旨に照らすと、既に任意の支払いにより本件貸金債務の元本と利息制限法の範囲に引き直した利息の支払いが済んでいて、さらに超過支払いが生じていて、これについて不当利得が被告に成立している場合に、右貸金債務に関して任意に債務弁済契約を締結する中で、利息制限法一条一項に反する過払分の不当利得返還請求権を放棄することは、右法の趣旨にもとるものとして許されず、違法な約束といわざるを得ず、無効なものというべきである。

これに対し、被告は、本件和解契約が弁護士の資格を有する者によって締結されているものであること、本件和解契約は被告が右和解交渉にあたった原告代理人の訴外A弁護士を信頼した上でのものであることを主張するが、これら主張は、当裁判所が右に認定説示したところを左右するものではないものと考える。

それゆえ、再抗弁には理由がある。

四  以上によれば、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官・福島政幸)

別紙計算書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例